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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)70593号 判決

原告 有限会社朝日事務機商会

右代表者代表取締役 前川竹治

右訴訟代理人弁護士 吉田康俊

被告 山口長寿

右訴訟代理人弁護士 大城豊

被告 長部和森

被告 桑田昌一

主文

東京地方裁判所昭和四九年(手ワ)第二、六九三号約束手形金請求事件の手形判決を認可する。

異議申立後の訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

被告山口長寿が本件各手形を振出し、原告が現にこれを所持することは当事者間に争がなく、被告長部和森が本件各手形に裏書し、被告桑田昌一が本件(1)ないし(4)の手形に裏書したことは、それぞれの被告と原告との間で争がない。

よって、本件各手形が裏書禁止手形か否かを検討する(被告桑田はこの点を抗弁として主張しないが、原告が先に事実を陳述しているので、同被告についても他の被告らと同様に扱うこととする。)。

本件各手形に、指図文句と併記した指図禁止文句(具体的には「但し裏書を禁止します」の文言)があり、右禁止文句は被告山口が振出に際して印刷により記載したものであることは、原告と被告山口及び長部の間では争がなく、原告と被告桑田の間では、≪証拠省略≫によって認めることができる。右認定事実によれば本件各手形が裏書禁止手形であることは動かしがたいところである。けだし、本件各手形とも指図文句と指図禁止文句が併記されているので、一見すれば同等の効果をもつ相反する文言の併記と思われないこともないが、指図文句は手形要件ではなく無益の記載事項であり、統一手形用紙であればすべて記載されている文言であるに対し、指図禁止文句は任意且つ有益的記載事項であって、特定の手形にのみ記載のある文言であるから、両者が併記された場合は後者の効力が発生すると解するのが、記載事項の性質の比較からみて正当な結論である。又手形取引の実態から推察しても、本件各手形のような両者併記の場合、これをもって意味を把握しかねる記載と理解するのは、過度に文理を重視する態度であって、通常の取引人であれば、指図禁止の効力のある手形であることを遅滞なく了解すると考えられるからである。

右に判断したように本件各手形が裏書禁止手形である以上、原告は指名債権譲渡の手続を履践しなければ振出人被告山口に対して手形上の権利を主張できないが、この点について原告の主張立証はない。又、被告長部、被告桑田は、ともに裏書禁止手形に裏書した者であるが、裏書禁止の効力として裏書人の担保責任が生じないことになるから、原告は右被告らに対して遡求権を行使しえない結果となる。

右のとおりであるから、原告の本訴請求はその余の争点について判断するまでもなくすべて失当であり、これを棄却した原手形判決は認可すべきものである。よって民事訴訟法八九条を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 吉江清景)

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